第15章 6000万円の取引

稲垣栄作は眉をひそめながら、高橋遥を横目で見たが、何も言わなかった。

高橋遥はただ淡々と微笑み、小提琴を手に取り、立ち上がって部屋を出て行った。

「稲垣社長、6000万円をお忘れなく」

その声には一切の感情が感じられなかった。

稲垣栄作は決然と去っていく高橋遥を見つめ、心の中に一抹の違和感が生じた。

彼女は本当に変わったのだ。

高橋遥は今、稲垣栄作のことなど気にしていない。彼女が気にしているのは利益だけだ。

6000万円、すぐに彼女の口座に振り込まれた。スマホの画面に表示されたゼロの列を見て、高橋遥は満足感を覚えた。

これは初めて、稲垣栄作から肉を削り取った瞬間だった。滑稽な...

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